喉仏の奥に飼っている怪獣について



「……」

カップコーヒーを手に、コンビニから出てきた七海は私を見ると片眉を少し上げた。

「任務終って新田ちゃんに連絡したら、七海も一緒に拾うからここのコンビニで待っててって言われたんだよね」
「ああ、なるほど」

さっきまで動き回っていたから、分からなかったけれど、こうしてじっとしていると秋風が身にしみる。この前まで、阿呆みたいに暑かったのに、ここ数日でぐっと寒くなってきた。急激な変化に身体はついていかないし、衣替えだって間に合わない。まぁ、ほとんど車移動だしと甘く考えていた今朝の私を恨む。小物ぐらい引っ張り出してくれば良かった。一人だけ暖かそうなマフラーしやがって。

「七海それ、一口ちょうだい」
「嫌です」
「ケチっ」
「猫舌ですよね、アナタ」
「そうだけど、寒いんだもん!!」
「一口あげたら、火傷したなんだと騒ぐのが目に見えてるので絶対に嫌です」
「あーケチ。ケチ七海っ!」

七海のバカ。七三。一口ぐらい、くれたっていいのに。ふいと顔をそらすと、ひらひらとはためく肉まんと書かれたのぼりが視界に入ってきた。小腹も空いたし、肉まんでも食べちゃおうかな。絶対に、七海にはあげないんだから。なんて考えていたら、急に七海の匂いが近くなって暖かさに包まれた。七海がマフラーを貸してくれたんだと、気が付くまでに少し時間がかかった。

「あ、りが……と」
「風邪でも引かれたら、寝覚めが悪いので」
「……七海に優しさを感じた私が浅はかでした」
「少しぬるくなりましたけど、飲みます?」

そう言って、差し出されたカップコーヒーに少し警戒しながらも口をつけると、確かに私でも飲める温度になっていた。七海のマフラーとコーヒーで少し暖まってきたけれど、無防備な指先はすぐに冷たくなっていく。コーヒーを七海に返して、両手を擦り合わせて寒さをやり過ごす。

「……手でも繋ぎますか」
「それは、やだ」
「……」
「うそうそ。仕方ないから繋いであげる」

喉の奥から聞こえてきた、呻き声みたいな溜め息に笑いながらゴツゴツした七海の手を下からギュッと握る。

「これだけじゃ、まだ寒いから七海のポケットに入れてよ」
「……」
「やっぱこうしたほうがあったかいね。ん……? なんか、あれ? 手袋持ってんじゃん七海!!」

ポケットの中、感じた違和感に指先だけ動かすと触れた皮のような手触りに、いつも七海がしていた手袋を思い出す。

「……持ってません」
「あるじゃん、なんで嘘つくの」
「……鈍感め」
「ん? なに? 今、舌打ちした!?」

騒ぐ私を諌めるように、繋いだ手に力が込められる。込められすぎて痛いんですけど。

「……今晩、なにか温かいものでも食べに行きますか」
「あ、いいね。猪野くん誘お」
「……猪野くんは、今朝お腹が痛いと言っていました」
「そうなの? 残念。じゃあ七海どっか美味しいお店二人で予約しといてー」
「……」

また七海の喉の奥から、呻き声みたいな音が聞こえてきた。怪獣でも飼ってるの?

「あ、新田ちゃんは?」
「いえ、彼女もお腹が痛いらしいです」

お腹の風邪でも流行ってるのかな。急に寒くなってきたし、そういう時期だよなぁ。今夜は、鍋かおでんかなにになるだろう。そんなことをぼんやりと考えていると、少し寒さが和らいでいく気がした。









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